3つの視点から見た鰻のエサ事情

■はじめに

夏の風物詩であり元気を付ける食材として日々親しまれている鰻。しかし、その美味しさの背景には、近年深刻化する資源枯渇の問題があります。

今回は完全養殖を目指す国の視点、鰻釣りを行う一般の消費者の視点、そして業として鰻を育てる養殖場の三つの視点から鰻の餌事情を探り、持続可能な水産資源の利用に向けて、どのように鰻と向き合っていくべきかを考えたいと思います。

■完全養殖を目指す国の視点:低コスト飼料がカギ

鰻は雑食性の魚です。小魚からエビ、カニなどの甲殻類まで、様々なものを食べてます。

まず水産庁を中心とする産学官提携機関では、鰻の完全養殖達成に向け精力的に研究開発を進めてきました。完全養殖とは、人工的に卵から成魚まで育てる技術です。 これまで、鰻の稚魚の餌にはサメの卵を使用した液体状の飼料がよいとされてきましたが、安定供給が難しく、コストも高いという課題がありました。そこで、新たな人工飼料として鶏の卵の卵黄や乳タンパク質等を使用した粉末飼料の開発に成功しました。今後は飼育成績を維持しながら、さらなる低コスト原料の飼料の開発が期待されています。

■鰻釣りをする消費者の視点:匂いが強い餌が好まれる

っぽうで、鰻釣りを行う一般消費者の目線も見てみましょう。川や河口での鰻釣りは、古くから人々に親しまれてきた伝統的な釣りとして親しまれています。しかし、近年は鰻の数が減り、釣果が安定しない状況が続いています。

鰻釣りにおいては、餌の種類や鮮度が釣果に大きく影響します。先ほど述べた通り鰻は雑食で、特に成魚の場合は、小魚から貝類まで、さまざまなものを食べます。鰻釣りに使われる餌として、一般的にはミミズや貝などの生餌が使われます。最近では、魚の切り身やレバーといった、匂いが強いものも釣りに使われることが多いようです。 ※なおシラスウナギ漁は許可を受けた漁業者でないと行えず、勝手に採って売ってしまうと罰則を受けてしまいます。2020年12月には密猟者の罰則が強化され、アワビ、ナマコとともに罰金上限が300倍の3000万円まで引き上げられました。

■養殖場の視点:コストと品質のバランス

私たち養鰻業者にとって、鰻の餌は最大の経費であり、同時に鰻の成長と品質を左右する重要なものです。鹿児島鰻で育てている養殖鰻の餌は、魚粉を主原料とした配合飼料です。この配合飼料に水を加えて練ったものを鰻に与えます。飼料メーカーから仕入れている餌は、魚粉に栄養剤やビタミン剤が加えられていますが、安全なものです。

■多様な視点から考える鰻の未来

このように、鰻の餌は、鰻の成長状態や目的によって、さまざまな種類が用いられます。

資源枯渇問題や伝統文化など、様々な課題を抱える鰻の未来を創造していくためには、それぞれの立場を超えた連携と、より深い理解が必要不可欠です。 今後は、これらの新技術をさらに改良し、天然種苗に匹敵するコストで、安定的に人工種苗を生産できるようになれば、鰻の資源保護に大きく貢献できると期待されます。持続可能な鰻養殖を実現するために、私たちができることは、鰻の生態の現状や養殖技術について関心を持ち、知っておくことです。
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    鰻の餌は鹿児島鰻のオリジナル飼料。
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    大きくて美味しい鰻をたくさん届けるには、餌の品質が重要です。