完全養殖技術の進化~鰻の未来を考える~

完全養殖技術の進化 ~鰻の未来を考える~

 

これまで、鰻の生産は自然界の稚魚であるシラスウナギを獲り、養殖することに頼ってきました。しかし、長年の研究の成果により、近年その流れが変わりつつあります。

今回は2022年に水産庁で発表された「ウナギ種苗の商業化に向けた大量生産システムの実証事業 2017~2020年度における成果概要(中間報告)」を参考に、鰻養殖の新たな進歩についてご紹介します。

鰻完全養殖に対する5つの課題

 

鰻の完全養殖・商業化に成功すれば、天然鰻の資源減少や値上げに悩む必要はなくなるでしょう。しかし鰻の完全養殖には、さまざまな課題があります。現在、水産業界では鰻の完全養殖に向けて産学官連携した研究を行い、以下の5つの課題に取り組んでいます。

1.卵と稚魚の大量生産 まず安定した稚魚の生産のために、大量の卵と稚魚の生産が必要です。近年、人工授精技術の開発が進み、卵の採取量が増加しています。また稚魚の飼育技術も向上し、生存率が向上しています。今後の課題としては、産卵時期や親魚の個体差などによる卵質低下の対策が必要です。

2.餌の開発 鰻完全養殖の商業化を実現させるために、さらなる高成長・高生残率かつ低コストを実現する飼料の開発が求められています。鰻は肉食の魚のため、動物性タンパク質を多く含む餌を好みます。近年、魚粉や魚油の代替となる植物性タンパク質や微生物由来の餌の開発が進んでいます。

3.効率的な飼育設備の開発 鰻の成長に適した水質や温度を維持できる水槽設備などの開発も必要です。鰻を育てるのに最適な水槽構造の分析、水槽のサイズや形状等の見直しが進んでいます。

4.自動給餌システムの開発 仔魚の飼育では給餌に多大な労力が掛かり、人件費の割合が大きくなっています。鰻の成長に適した量とタイミングで餌を与えることができるシステムの開発が進められています。

5.稚魚生産技術の普及 研究だけでなく、実際に再現性があるのか、稚魚生産技術の普及を求めた活動も必要です。養殖業者への技術指導や稚魚の販売促進が進められています。

鰻は産卵期が短く産卵数も少ないため、自然界から稚魚を採取することは困難です。これらの課題を解決することで、二ホンウナギ人工種苗の大量生産を実現し、養殖種苗を安定供給することができます。

鰻の完全養殖研究の現状と課題

 

2023年10月には、近畿大学が鰻の完全養殖に成功しました。これまで国立の水産機構などでは完全養殖の成功例が出ていましたが、大学では世界初とのことです。

しかし、完全養殖には未だ高いコストがかかり、商業化には時間が掛かるというのが現状です。水産庁では、天然資源に負荷をかけない持続可能な養殖体制を目指し、2050年までに二ホンウナギをはじめとする主要養殖対象種の人工種苗比率を100%とする目標を設定しています。 しかし、現時点では人工種苗の生産コストは天然種苗の約10倍にもなります。このままでは、人工種苗の商業化は困難です。

鰻の完全養殖の将来

 

鰻の完全養殖は、鰻の食文化の未来を考える上で、非常に重要な技術です。

日本は鰻の完全養殖研究において、世界のトップを走っています。鰻の完全養殖とコストダウンがうまくいくようになれば、ビジネス的なチャンスも大きいです。これまで4000円前後だった鰻の蒲焼の価格が、1000円代で買える時代が来るのかもしれません。

今後の鰻の完全養殖技術の発展と普及に目が離せません。

  • 鹿児島鰻オリジナルの鰻の餌。どの養殖場も試行錯誤しながら鰻を育てています。
    オリジナルの餌。試行錯誤しながら鰻を育てています。
  • 鰻を育てる水槽も、細心の注意を払って管理しなければなりません。
    鰻を育てる水槽も、細心の注意を払って管理