養鰻場日記
鰻の蒲焼きの調理技術から見る、日本の食文化
日本から世界に広まった鰻料理の文化
鰻は暑い夏の日などに「精をつける」のにうってつけな食事。 歴史的にみると、日本で消費される鰻の量は世界的にトップクラスでした。近年では日本食料理店の海外進出や中国での鰻ブームにより、海外と比べると消費量は落ち着いていますが、現在でも鰻は日本人にとって夏の風物詩とも言えるのには変わりありません。 日本の食文化は、その多様性や独自性で世界中から注目を集めています。なかでも、鰻の蒲焼きという調理法は、その裏に長い歴史と高度な加工技術が存在します。 鰻の蒲焼きをはじめとした、鰻料理の調理技術と味付けの違いについてお伝えします。日本の鰻調理技術:職人の技が生む美味しさ
鰻料理は特に「蒲焼き」が有名ですが、「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」とあるようにその調理過程は非常に繊細で、長い年月をかけて磨き上げられた技術が必要です。 まず、生け簀(いけす)で育てられた鰻は、熟練の職人によって丁寧に捌かれます。ここで使用されるのが、鰻専用の特別な包丁「鰻包丁(うなぎぼうちょう)」です。鰻包丁の特徴としては、「江戸型」「大阪型」「名古屋型」「九州型」など、地域ごとに細かく種類が分かれている点があります。 次に、串打ちの工程があります。これは、鰻を均一に焼き上げるために必要なステップで、鰻の背側から腹側へと竹串を通します。この工程で職人の技術が光るのは、串を通す角度と力加減です。これによって、鰻の身が焼き上がりにおいても均一に仕上がるのです。 串打ちの後に蒸しの工程があり、最後に特製のタレと共に焼き上げます。このタレ作りもまた、各店舗ごとに秘伝のレシピがあり、何十年も継ぎ足して使い続けられる「古タレ」なども存在します。このタレが、鰻に深い味わいと風味を与え、一皿の蒲焼きを極上の逸品に仕上げます。 このように、一匹の鰻が美味しい蒲焼きに変わるまでには、多くの熟練された技術と長い年月をかけて磨き上げられたノウハウが必要です。各工程でのわずかな調理法、焼き加減、味付けの違いが、最終的には「美味しい」という結果に結びつくのです。 このような職人の技術と独自のノウハウは、日本の食文化の素晴らしさを如実に示しています。地域ごとに異なる食べ方と味付け
鰻の蒲焼きは、地域によって食べ方や味付けが異なるのも特徴的でです。蒲焼きのタレは醤油やみりん、砂糖などを煮詰めたもので、店舗や地域によって味や色が異なります。例えば、関西風のタレは甘く濃い目で、関東風のタレはさっぱりとした味です。焼く前にタレを塗るか焼いた後にタレを塗るかといった違いもあります。 地域ごとの食べ方の違いの例として、「ひつまぶし」があります。 ひつまぶしは名古屋発祥の料理と言われています。これはおひつに入ったご飯の上に小さく切った鰻の蒲焼がのっているもので、そのまま食べる、ねぎや海苔、わさびなどの薬味を加えて食べる、お茶漬け用の出汁をかけて食べるという3種類の食べ方で楽しむことができます。 また福岡県柳川市発祥と言われる「せいろむし」という料理もあります。これは容器の底がせいろ(蒸しかご)になったものを使う料理で、タレを掛けたご飯の上に鰻の蒲焼きを乗せて一緒に蒸し上げたものです。蒸すことで鰻とご飯がふっくらと仕上がることが特徴です。 地域によってタレや調理法に工夫がなされており、さまざまな鰻の味や食感を楽しむことができます。どうぞ味の違いを比べてみて下さい
鰻の蒲焼きは日本独特のもので、さらに国内でも地域や店によって焼き方・調理法などが大きく異なる料理です。 どうぞ地域による鰻の蒲焼きの味を比べてみて下さい。